悠久バプテスマ

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日曜朝のパチ屋に並ぶ男

 またブログを書いている。今日はスロットに出かけた。ブラックラグーンという古い機種を妙に打ちたくなったからである。ブラクラは今や秋葉原のアイランドという店ぐらいにしかないので、そこに行かなければならない。

 スロッターの朝は早い。9時半に店の前に並んでいないと、抽選券がもらえないので、9時前には家を出なくては間に合わない。出勤のようだ。俺の場合は出勤より相当早い。しかも時間にだらしない男であるためギリギリに出て、駅まで走ったりする始末である。スロット打つために息を荒らげて走る! これが平日だったらなおよい。真面目に通勤する会社員や、登校する学生、とりわけランドセルを背負った小学生などとすれ違いながらパチンコ屋に行くのは、常軌を逸していて最高である。

 俺が友人の家に居候していたある日、小学生とすれ違いながらパチンコ屋に向かい、銀行口座のお金の大半である8万円をCR花の慶次にぶち込んで使い果たし、帰りに掃除をまったくしていないせいで床が砂だらけのすき家で食ったネギトロ丼で気持ち悪くなってしまい電柱にもたれかかって吐き気をこらえている時に、下校中の小学生がその横を通り過ぎていった時などは、この世のものとは思えぬ気持ちであった。こんな稀有な体験ができたのは、パチンコ、スロットを嗜んでいたからこそである。

 話を戻すと、今はさすがにそれほど逼迫した家計ではない。なくなっても生活に影響しない範囲の金額で遊ぶのである。スロットはけたたましい音と激しい光でビガビガビガと脳を刺激してくれる。アーーーーーッ! こんな体験は、スロット以外ではできない。

 ギリギリ間に合った俺は、列に並ぶ。時間内であれば、並んだ順番は、店に入場できる順番とは関係がない。俺がもらった整理番号は430番ぐらいで、つまり430人ほどはその店に並んでいるということだ。400人からの大勢の人間が、朝っぱらの公道に大挙して三列で並んでいるのである。これって行政的にはどうなっているのだろうか。俺には知るよしもない。店員が「なるべく車道側に詰めてお並びくださーい」などと言って交通整理している。そして俺は三列の真ん中だったのだが、俺の左のやつが、前の三人の右側のやつと友達らしく、待っている間、そいつと話すために列を抜け出す。

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 お絵かきを使ってみた。車道側に詰めろと言われているのに、単騎で四列目を形成するのである。パチンカスのイメージを損なわないよう、世間様へのアピールに余念がない。パチンカスの鑑である。俺も見習わなくてはならない。

 そして抽選がおこなわれ、俺の入場順は304番であった。俺の打ちたいブラックラグーンは古い台なので1台しかない。絶対無理だし、他の主要な台もほとんど絶望的な位置である。最終的には520人ほどが抽選したようだった。半分より後ろなので、ギャンブルをする前に早速運が悪いといえる。しかしここで「運を貯めた」などという考えがよぎるのもパチンカスの特徴である。独立試行という概念はない。運の量は何らかの保存法則や流れ、個人の資質のようなもののバランスがあり、あるいは超越者の手によって規定されていると捉えているのである。抽選によって順番が悪いことは「運を貯めた」とも言えるし、「流れを悪くした」あるいは「これからの運の悪さの予兆」とも言える。なんとでも言えるのである。根拠なんざねーんだから。

 そして抽選が終わると、いったん解散になり、開店10分前に再集合となる。それまでの間は15分ほどしかないのだが、おのおの道にたむろしたり、路地裏でタバコ吸ってポイ捨てしたりして、思い思いの方法で、パチンカスのブランドイメージの維持に努める。俺はその辺をウロウロしていた。今日はどうやら秋葉原では祭りが開催されるようであったためだ。オッチャンやオバチャンや、明らかにカタギじゃなさそうな強面の人なんかもが、ウーロン茶のペットボトルなんかを握りしめてハッピを着て練り歩いていた。道端に、運動会の来賓席みたいな仮設テントも散見される。

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 そして再集合の時間になったので店の前に行く。1番の方、2番の方、などと点呼がなされるのだが、この調子で300番とか待ってたら開店時間過ぎるで、と思っていたら、そういえば番号ごとに集合場所違うんじゃねえか? と思い至った。並ぶの久しぶりなんで忘れていたのである。

 慌てて店の裏に行ってみたらやっぱりそうで、300番から点呼されていたものだから、304番の俺はもういないものとして扱われていた。いちおう店員に聞いてみたけど、点呼時にいなかった場合は最後尾になるということで、早く行った意味が消失した。まあどうでもいい番号だったし、別にいいか、このまま帰る気もないし、俺が悪いし、現時点で最速で店に入れる方法に甘んじよう、などと最後尾に並んでいると、後ろから、俺とまったく同じことをした客が、店員に「ふざけんじゃねえよ」とか言ってキレてるのが聞こえた。

 店員は「抽選の際にもこの旨は皆様にお報せしておりました。たいへん申し訳ありませんが、他のお客様にも守っていただいているルールですので、最後尾にお並び頂くことになります」とかいう感じのスーパー丁寧なことを言っているのだが、そいつは「俺が聞こえなかったら言ってねーようなもんだろうがよ」とか言っていた。警察沙汰への引きがねになるリスクがあろうと、何をおいても第一にパチンカスイメージを優先するその弛まぬ努力には、頭が上がらない。俺も同じ状況にあったのに、彼のようには動けなかった。不甲斐ないといったらない。ヒートアップしていくその怒声に、ちらちらと視線を向ける他の客たち。しかしすぐに逸らす。彼の勇姿は、目ではなく、心で見るのだと、同胞たちは分かっていたのだ。

 とかなんとかでブラクラは打てず、結局いつものミリオンゴッド凱旋を打つのであった。ミリオンゴッドは湯水のようなスピードで金がなくなるのを我慢しながら奇跡を待つという大味な台なので、開店直後に座る人はあまりいないのである。しかし4000円ほどで2100枚ぐらい出た。コインは1枚20円なので+1900枚ほどである。「運を貯めた」甲斐があったというものだな。

 まあ、楽しかったのでよかった。昼寝しよ。